近年、企業などを取り巻く環境が大きく進化しています。そのひとつが女性の社会における活躍です。プロジェクトを立ち上げて、女性管理職やリーダーなど、すべての女性社員が活躍できる環境を整えている企業も少なくありません。そこで今回は、女性活躍推進法を例に考えながら、企業にもたらすメリットや課題についてご紹介します。
女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)とは、働く女性の活躍を後押ししてくれるための法律で、2016年4月に施行された後、数回にわたり改定されています。これにより、社会で活躍したいと考えている女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会の実現のために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定や、女性の職業選択に関する情報の公表が義務付けられています。
女性活躍推進法によって企業に求められている行動は、以下のとおりです(ただし、従業員100人以下の事業主の場合は努力義務とされています)。
1. 自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
2. 行動計画の策定、社内周知、公表
3.行動計画を策定した旨の届出
4. 行動計画の実施・効果測定
具体的に、企業は以下の項目について把握しなければいけません。
①女性採用比率
②勤続年数男女差
③労働時間の状況
④女性管理職比率
特に、女性を採用している企業でも勤続年数が男女によって大きく差があることは少なくありません。また、日本は世界主要諸国に比べて管理職に占める女性の割合が低いことも問題視されています。
把握した状況について以下の項目を盛り込んで、具体的な行動計画を策定します。
・目標(定量的目標)
・取組内容
・実施時期
・計画期間
そして、策定した行動計画は、非正社員を含めた全ての労働者と、外部へ公表する必要があります。労働者には、事業所内での掲示、電子メールでの送付、書面での配布などで周知します。外部への公表は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」への掲載や、自社サイトへの掲載などの方法を活用しましょう。
行動計画を策定・変更した後は、電子申請、郵送または持参による方法で、管轄の都道府県労働局に届け出る必要があります。
決定した行動計画を実行します。たとえば、女性採用比率が低いのであれば、積極的に採用するなどです。ただし、採用しても勤続年数が少なければ計画の意味がありません。女性が働きやすい環境をつくるために、常に問題点を意識することが重要です。 次に、取り組みの実施状況を点検・評価しましょう。数値目標の達成状況や実施状況を評価し、その結果をその後の取り組みや計画に反映させ改善するというサイクルを確立させる必要があります。 女性が働きやすい環境づくりをすることで企業の認知度やイメージも向上するため、積極的に取り組んでみてください。
「女性活躍推進法」に基づき、女性の活躍推進に関する状況が優良な事業主に与えられる「えるぼし認定」という認定制度があります。2020年には、さらに水準の高い「プラチナえるぼし」という認定が創設されたことからも、女性の活躍推進についての取り組みが高まっていることがうかがえます。
この認定はすべての企業に与えられるわけではなく、基準を満たしている企業のうち、厚生労働省からより優良だと認められた企業のみに与えられます。えるぼし認定は、「採用」「継続就業」「労働時間などの働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」といった5つの評価項目から成り立っています。クリアできた項目の数によってもえるぼし認定の段階が変わります。また、認定要件は年度ごとに変更されるため、申請を検討されている企業の担当者は、厚生労働省の女性活躍推進法特集ページをご参照ください。
1. 企業の認知度・イメージが向上する
2. 公共調達や低金利融資において優遇される
3. ダイバーシティ対策に繋がる
4. 助成金を得ることができる
たとえば、えるぼし認定を受けると自社の商品や広告などにもえるぼしマークを利用することができます。そのため、女性活躍のために積極的な取り組みを行っていることを社会にアピールすることが可能です。このような取り組みを広報で活用することで、認知度をアップさせることができるでしょう。また、採用活動においても、女性が働きやすく、やりがいを感じられる職場というイメージがあるため、優秀な女性求職者の獲得にもつながります。
えるぼし認定を受けた企業は、公共調達や低金利融資において優遇されます。各府省庁では、ワークライフバランスを推進する企業を公共調達で積極的に評価することを公表しており、えるぼし認定もその尺度のひとつとして数えられます。また、日本政策金融金庫の「地域活性化・雇用促進資金(企業活力強化貸付)」を利用する場合でも、金利の優遇を受けることが可能です。詳しくは、日本政策金融公庫のホームページをご覧ください。
参考:働き方改革推進支援資金|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)日本のビジネスにおける「ダイバーシティの推進」は重要な課題となっています。近年は、少子高齢化が進むなど慢性的な労働者不足に陥っているの状況が続いているため、女性をはじめ高齢者や外国人、障がい者など多様な人材の雇用を推進していくために、就労環境の改善は必要不可欠です。そうした背景のなか、女性活躍推進法に取り組んでいる企業は、男性とは異なる個性や能力を持ち合わせた女性の活躍を後押ししているため、人材獲得における優位性の向上が期待できるでしょう。また、女性が能力を十分に発揮できる環境を整えていけば、柔軟に対応できるイノベーティブな組織づくりも可能になっていくはずです。
働き続けながら子育てや介護等を行う労働者のために、就業環境の整備に取り組む企業が申請できる助成金が「両立支援助成金」です。これは、職場と家庭の両立支援に取り組む事業主を応援することと、それによる雇用の安定を目的に給付されます。2024年度の両立支援等助成金は「出生時両立支援コース」「育児休業等支援コース」「育児中業務代替支援コース」「柔軟な働き方選択制度等支援コース」「介護離職防止支援コース」「不妊治療両立支援コース」の6つのコースが設定されています。
1. 管理職を目指している女性が少ない
2. 出産を機に辞めざるを得ない
3. キャリア形成には長時間勤務が必要になっている
今後も企業においてキャリアを積んでいきたいと望む女性は少なからず存在します。その一方で、管理職を目指して働いている女性の方がまだまだ少ないのが現状です。
日本経済新聞が公開した「働く女性2000人の意識調査」では、「管理職になりたい」と答えた女性の割合は2割という調査結果が出ています。これはアンケートに答えた女性自身が管理職になった場合、ワークライフバランスや従来の働き方など、さまざまな観点を考慮した結果だと推測されています。そのため「管理職になりたくない」と答えた8割の女性が、「管理職になりたくない=成長意欲がない」とはいえず、本心ではキャリアを望んでいても、望めない意識下になっている女性も含まれているのが現状です。
今後の企業の成長において、女性の管理職を増やすことは必要です。このような根強い働き方に関する課題に、企業が今後どのように対峙していくかが女性の活躍を推進させていくポイントとなるでしょう。
結婚や出産を機に退職する人の中には「本当は仕事を続けたい」と考えている人も少なくありません。しかし実際には、「子育て後の再就職は難しい」と感じているようです。「育児に専念したい」「家庭を大切にしたい」と望んで専業主婦になる人もいますが、辞めざるを得ない状況にある人もいます。
子育てがひと段落ついて、職場に復帰する人も数多く存在します。とは言っても、そのほとんどが時短勤務であるため、仕事内容などが限定されることは言うまでもありません。しっかりと労働環境を整えている企業もありますが、管理職へとキャリア形成していくためには、長時間勤務が必要になっていることがほとんどです。
女性活躍推進法は、女性がバリバリに働くことを望んでいるわけではありません。キャリア形成のために日々努力している人もいれば、子育てや家庭を大切にしたいと専業主婦を望んでいる女性もいます。
女性活躍推進法とは、「女性が出世できる」社会をつくりあげるだけでなく、ワークライフバランスの見直しや、本人の意思に基づいた働き方ができるような取り組みを求めています。そのため、女性活躍推進法に取り組む際は、出産や子育てと両立できる仕組みがあるかどうか、労働者の望みや目標に配慮した選択肢を用意ができているかどうかがポイントとなることは忘れないようにしてください。
女性が長く働き続けられる環境を整えるためには、経営層や管理職を中心に企業全体で問題点を認識しなければ、現状を改善することはできません。女性の能力を活かす仕組みづくりは女性の活躍の幅を広げるだけでなく、男性の意識や働き方に対する考え方を変えることでもあります。女性活躍推進法を基に、誰もが働きやすい会社づくりを進めていきましょう。