「20歳|3D,CG大学生、フランス人です、自分で日本語を勉強しています。」というプロフィールを見て驚いた。XにアップされているデモリールやRenderManをはじめとする使用ツール、冒頭に引用したツイートや年齢が事実であれば、その上達速度は尋常ではない。
果たして、このアカウントの主・ジョナタンとはどのような人物なのか。どのような背景や学習がこの上達速度を生み出しているのか。気になってコンタクトをとったところ、幸運にもメールインタビューの機会が得られた。瞠目するような速さで技術を身に着ける彼のスタンスや背景、フランスの大学におけるCGの学びなどを紹介しよう。
Jonathan ジョナタンX
CGWORLD(以下、CGW) :Xのプロフィールによると現在20歳、フランスでCGを学ぶ大学生とのことですが、CG制作はいつから学ばれているのでしょう? 大学以前からなにかされていたのですか?
ジョナタン :CG(3D)を学び始めたのは大学からです。ただ、高校の選択科目として映画の歴史やフレーミング、照明、ナレーションなどさまざまな技術を学ぶ機会があったのでそれらはCGにも生きているかもしれません。
CGW :直近のXにおいては、2Dライクな3D作品を多数手がけられています。
現在、どのような作品制作を行っているのでしょうか?
ジョナタン :現在、学校が夏休み期間のため、個人的なプロジェクトを多く取り組んだり、
Substance Painter のような新しいソフトウェアを学んだり、新しい技術を習得したりして、来年に向けての準備をしています。
2Dと3Dを組み合わせたビジュアルを作りたいと思っており、このスタイルが非常に好きです。実際、この二つの技術がうまく組み合わさると、とても美しいものになると感じています。現在、2DのFX(視覚効果)を使って3Dアニメーションにダイナミズムを加えたり、3Dのレンダリングにペイントを重ねたりして、どのような結果が得られるかを実験しています。
CGW :少しだけどのように制作しているか教えてもらっていいですか?
ジョナタン :まずはモデリングの工程ですが、私の場合まず最初に、基本的な形状と構造を作成する3Dブロッキング を行います。この段階では、詳細な部分はなく、大まかな形状だけが表現されています。
次に、 モデリングは次のステージで、詳細を追加し、形状をより具体化し、最後に スムーズメッシュで、ポリゴンの数を増やし、表面を滑らかにしてモデルを仕上げます。
CGW :ライティングやコンポジットも非常に印象的です。こちらについてもぜひ!
ジョナタン :次にライティングについては、まずはキーライト を考えます。この光は、オブジェクトの主要な部分を明るくし、影を形成します。シーン全体の基盤となる重要な光源です。
その次に、フィルライト 。いわば補助光源で、キーライトによって生じた影を和らげ、オブジェクトの暗い部分を明るくします。この光は影を作らないように設定されています。
最後に、環境光 。シーン全体を均一に照らす光源です。間接照明をシミュレートし、全体的な雰囲気を作り出します。これにより、シーンに自然な感じが加わります。
全てのライティングを組み合わせた上で、最後にテクスチャリングを行います。
コンポジットの工程では、空の画像とCG素材をレンダリングして合成。
その後、雲をデジタルペインティングで合成、グロー処理を加えて完成という流れですね。
CGW :CGを学び始めるきっかけは何だったのでしょう?
ジョナタン :もともと映画や映像の世界が好きで、小さい頃から兄や従兄弟と一緒に短編映画を撮る遊びをしていたんです。そこから、段々とこれを仕事にしてみたいと思うようになり、選択科目として映画を履修できる高校に進学しました。学校では素晴らしい先生に出会い、多くのことを学ばせてもらったと思います。
そのまま実写映画の世界で働こうかとも思っていたんですが、ある日、3Dアニメーション映画について調べているうちに、3DCGの可能性に衝撃を受けたんです。想像力さえ持ち合わせていれば、なんだってできるというんですから、感動しましたよ。
その後、
ESMA(École Supérieure des Métiers Artistiques) という、フランスのアートとデザインの学校に進学しました。特に3Dアニメーションとデジタルアートに強い学校として知られています。
CGW :ESMAにおける授業内容はどのようなものなのでしょう?
ジョナタン :ESMAの3Dアニメーション映画と特殊効果コースは5年制のプログラムになっています。
1年目はデッサンを主にしながら解剖学、パース、色彩学などの授業。
3DCGの授業が始まるのは2年目からで、2年目と3年目でCGの基本的なことを学ぶことになっています。モデリング、ライティング、テクスチャリング、アニメーションなんかですね。あとは1年目に引き続きデッサンを学んだり、ストーリーボードや映画映像分析の授業を受けたりもします。9月から3年に進級する予定の私もこのカリキュラムの最中にいることになりますね。
4年目はアニメーション、リギング、コンポジティングなど、各分野に分かれて学習。
そして最後の年の5年目に、学生グループで短編映画を制作、チームでの協力や各自のスキルに応じたタスクの分担を学んで、修了です。
学生がつくった短編映画はESMAのYouTubeチャンネルでも公開されていますよ。
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CGW :学校での授業以外に独学なども課されているのでしょうか?
ジョナタン :そうですね、実際のところ、授業以外での独学の必要はあまりないんです。ESMAにはとてもいい先生方が揃っているので、この二年だけでも、Maya、Photoshop、Rendermanなどソフトウェアの使い方から、絵画やデッサン、物語を伝えるための技法、規律、組織的に効率よく作業する方法まで、非常に多くのことを教えてもらいました。
ただ、私は常に学びたいと思っているので、授業外のことも独学しています。
YouTubeにあるチュートリアルや映画のメイキングを見たり、
『アニメーターズサバイバルキット』(著:リチャード・ウィリアムズ) のような本を読んだりね。
とはいえ、一番学べるのは結局実践だと思います。絵が上手くなりたいなら絵を描く、アニメーションが上手くなりたいならアニメーションを作る、モデリングが上手くなりたいならモデリングをする。シンプルなことですよ。
CGW :逆に、CGの学習においてつまずいたエピソードなどはありますか?
ジョナタン :基本的に私は、すべての問題は粘り強さと努力で克服できると信じています。なので、3DCGへの情熱を持つ自分の前に現れるすべての困難は練習と向上のための機会として捉えているつもりなんです。最初からすべてがうまくいくわけもないですしね。
ただ、強いて言うならデッサンには苦労しましたね。ESMAに入学するまではほとんど経験がなかったのもあり、かなり努力したと思います。まだまだ上達の余地は残っているので、日々練習ですね。
CGW :そうした学習が奏功してか、20歳の若さにしてハイクオリティの作品を制作されていますが、作品制作において意識していることなどはありますか?
ジョナタン :制作前の計画ですね。プロジェクトを開始する前はいつも「観客にどのような感情を伝えたいか」「どのようにそれを実現するか」を考えるようにしています。3Dでブロックアウトを作成し、多くの参考資料を集め、方法を考えます。構図、照明、テクスチャ、アニメーション、伝えたい感情の実現のためにそれらをどうするかを検討する。
そうして準備が整ったら、そこからは制作に没頭です。
あと、特に細部には注意を払うようにしていますね。学校でアニメーションとパースを教えてくれる先生はいつも「ディティールにディティールをつけろ!」と言うのですが、その言葉通り、細部こそが全体を形作ると思っています。
CGW :昨年末から日本語アカウントでの投稿を始められましたが、きっかけは何だったのでしょうか?
ジョナタン :ネットに作品を投稿していく中で日本のアーティストに出会ったこと、幼少期から日本文化に触れて育ち、卒業後には日本で働きたいと考えていること、日本語を使い人と交流する重要性を感じていることなどがきっかけです。
私自身、幼少期から『ONE PIECE』や『ポケットモンスター』『スーパーマリオ』にベイブレードなど様々な日本文化に触れて育ってきたのですが、2020年に3週間の日本旅行をして東京・京都・箱根を訪れたのを機に、日本に住んで働くという進路を強く意識するようになりました。
近年でも日本は『TRIGUN STAMPEDE』『THE FIRST SLAM DUNK』『ゴジラ -1.0』など優れた3DCG作品を多く送り出していますが、いずれの作品もダイナミックなアクションに満ちていると同時に、自然の移ろいや無常さを見つめるような細部への感性が同居していると思うんです。
そうした日本的世界観に、自分が惹かれているのを感じています。
CGW :今後、なにかやりたいことや展望などあれば教えてください。
ジョナタン :将来的に日本に移住し、アニメ、映画、MVなどさまざまなプロジェクトで自分のスキルを活かすためにも、作品作りに最善を尽くしていきたいと思っています。
今回はインタビューの機会をいただき、誠にありがとうございました。
TEXT_稲庭淳
EDIT_池田大樹(CGWORLD)