3DCGの専門メディア「CGWORLD」が開催する学生CGトライアル「WHO'S NEXT?」。
国内でもハイレベルな作品が集まる、業界への登竜門です。
この連載では、2024年6月に開催した第1回より「キャラクター部門」「背景・プロップ部門」の優秀者に、ツール選びから、作品への向き合い方、ブラッシュアップ方法などアドバイスを伺います。
第6回は 『梵界般若』で、キャラクター部門で3位に輝いた河村歩武さん(個人)です!!
-----優秀賞の受賞おめでとうございます!受賞の感想を聞かせてください。
ひとまず作品を完成までもっていくことができ、安心しているというのが正直なところです。入賞もすることができたのでありがたい限りです。
-----作品のコンセプトや、どんな点にこだわって制作したのか教えてください。
仏教における密教信仰に存在する降三世明王というアジア文化圏のモチーフをメカニカルなビジュアルに落とし込み再構成しています。一つ一つのパーツや細部に至るまでゼロベースで作成しました。
初期構図
機械をモチーフにした作品は今回が初めての試みだったので、完成した際のクオリティ面で粗が出ないように何度も作っては映画に出てくるヒーローアセットなどと比較して修正しての繰り返しでした。モチーフが機械なので、実際に動くことができそうか、コンセプトとの整合性において理にかなっているかなども考慮しています。ツールも調べながら手探りで徐々にブラッシュアップしていった感じです。
次の作業工程に移るかどうかのところでモデルを部分的にゼロからデザインし直したり、もう完成段階と言える状態から納得いかず作り直すことがかなりありました。そこが一番苦労したところなのかなと個人的に思っています。
モデリング途中経過:親指
モデリング途中経過:腕部
モデリング途中経過:頭部
レンダリング画像:腕部
----------作品制作に用いたツールについて教えてください。
今作ではZBrush, Blender, Photoshopです。基本的に、予算、習熟度、効率、締切を考えて選んでいます。
既存のソフトはどれも優秀なものが出ているのである程度親しんでいればそれなりに見栄えのするものにはなるのですが、学び直す必要のあるものは習作などツールの機能を覚えるといったような目的がない限り、使い慣れているものを使用しています。それでも明確にこのソフトじゃないと遠回りになると判断した場合は調べながら制作します。
----------作品制作にかけた時間はどれくらいですか?
途中で全く触れていない期間があったりもしたので正確な期間は分かりませんが、三ヶ月ほどでしょうか。
----------審査員の作品の講評結果についてどのように感じましたか?特に参考になった講評結果などあれば教えてください
作品の最終段階で拘りきれない部分や迷った箇所をうまく隠しながら自分なりの良い妥協点を見つけて終わらせたのですが、そこで出た次回はこうしよう、ここは最初からこうしたらもっと良い出来になったなどの「心残り」を見抜かれたなと感じました。正に自分が引っかかっていたところを突かれたので、とても嬉しかった反面、受け手に作り手の脇の甘さは気付かれるということを強く実感しました。
具体的に言えば、秋元さん、鈴木さん、宮川さん、染野さん、Production IGさん、成田さんからライティング、ディテールの見せ方、動きの自然さを共通して指摘されたので今後の制作における課題点として改善していくべきだなと感じています。反面、コンセプトやアイディアは多くの審査員の方からご好評いただいたので悩んで捻り出した甲斐がありました。
秋元氏
非常に迫力のある構図で、画面の密度感、重量感も申し分ない。また、キャラクターのディテールは目を見張る物があり、非常にハイクオリティな作品に仕上がっていると思う。J.Jやマイケル・ベイを彷彿とさせる様な作品づくりで、コンセプトや筋立てがしっかりとしていて安心感がある。重量級の作品ではあるものの、色使いに関しては、静止画というところもあり、少々モッタリとしてしまっている様にも見える。DOFやレンズ効果を巧みに使っていて、奥行きや空気感などはうまく表現できているが、背景との馴染や、Fogによる霞もあって、キャラクターが溶け込んでしまっているのがもったいなくもある。巨大さと表現する意味では必要な要素だと思うが、ライティングや露出などで、背景からの逆光感などで、より畏怖感などを表現出来るし、更には、パーツや火の粉の発光感なども活きてくると思う。更に欲を言えば、ディテールは作り込まれたモデルだが、左右対称感などを打ち消す様な要素がボディなどに見えてくると、更にリッチに見えるかもしれない。
染野氏
圧倒的な迫力と、作者さんの持つ世界観をしっかり表現できている素晴らしい作品だと思います。色合いや雰囲気もきれいですし、キャラクターの作りこみが細かくて見入ってしまいました。強いて言えば、画面全体の空気感が少し均一すぎるため、遠目から見るとキャラクターが埋もれてしまって見えるのが勿体ない気がしたので、見せ場にしたい部分とそうでない部分への光の当て方やディティールの描き込み量にもう少し変化を出しても良いかなと思いました。
初期構図(背景抜き)
-----作品制作について、誰かからアドバイスをうけていますか?アドバイスを受けた場合、どのような内容のアドバイスでしたか?
今は第三者を介してフィードバックを直接頂くということはありませんが、強いて言えば画集や映画から得られる情報をアドバイスと受け取って作品に活かしています。今回の作品を含め「見せたい箇所をわかりやすく明快に」ということはよく指摘されるので常々意識しています。
-----普段どのように、3DCGやアートを学んでいますか?
独学でYouTubeを主にオンラインチュートリアルサイトを見ています。気に入ったものであれば書店などに行って書籍を購入しています。
-----普段どのように作品制作をおこなっていますか?
ここ数年は専らZBrushを毎日触っていましたが、実は二年前にCGWORLDで入賞させていただいてからほとんどCGから離れている期間がありました。
元々3DCG畑の人間ではないのでちょっとしたデザイン業務の制作に使うくらいで疎かったのですが、キャラクター造形にハマりつい最近から精力的に制作していこうかというところです。途中経過やコンテストへ向けての新しい作品などはXやInstagramを主に活動しています。
レンダリング画像:頭部
-----実践しているスキルアップの方法や、役に立った情報について教えてください。
キャラ造形のスキルアップのために、CGソフトではなく絵をとにかく描くようにしています。なんとなく立体にできたりかっこ良くはなるのですが、デザイン力や造形力は絵に描けないと立体にも落とし込めないと自分は思っているので、逆行しているようですが絵を描いています。
参考書籍はソッカの美術解剖学ノート(ohmsha)、キム・ラッキの人体ドローイング(ohmsha)、キャラクターの描き方(ホビージャパン)などアナトミー系が多いです。
チュートリアルは故Mike Nashさんのオンライン販売されているものを見ました。他にもGumroad、Wingfox、Coloso、Udemy、Domestika、FlippedNormals、The Gnomon Workshopなど内容の濃いオンライン修学動画サイトがあるので個人的にかなりおすすめです。
-----影響を受けた作品やリファレンスについて教えてください。
映像系でいえば、外伝作品を含め『トランスフォーマーシリーズ』(2007‒2023)を全て見直しました。他は『アリータ』(ジェームズ・キャメロン)、『ブレードランナー』(リドリー・スコット)、Production IG作品(『人狼』、『攻殻機動隊』、『PSYCHO‒PASS』シリーズ)、『AKIRA』(大友克洋)、他SFものを洗いざらいといった感じです。
ゲームは『Horizon』シリーズ、『Death Stranding』の画集をリファレンスにしています。
-----志望している業界と職種について教えてください。
主に映像系を視野にモデラー志望です。
-----今後の意気込みについてひとこと
名実ともにまだまだなのでもっとやれることを増やして、記憶に残る魅力的なキャラクターを制作していきたいです。
-----ありがとうございました!